消えたボールペン
「うわー!!」
小学生の大田ひろしは、思わず大声を出した!
あまりの声の大きさに休み時間の教室が静かになる。
「どうしたの? ひろし君」
女の子がビックリした顔で訊くと、
「僕の赤いボールペンが無くなっちゃったんだよ!!」
と、ひろしは大声を出した。
女の子は、
「ボールペンくらいで何騒いでるのよ」
と言った。
すると、ひろしは、
「高級な物で10万円もするんだよ! 大切にしてたのに!」
と顔を真っ赤にした。
女の子は、
「ちゃんと探したの? 机の中とか、カバンの中とか」
と訊いた。
ひろしは、
「探したよ! でも、どこにも無いんだよ!」
と言った。
クラスのみんなは、ひろしを見つめている。
その時、担任の桜井先生が教室に入ってきた。
「んー? 何か様子が変だけど、どうしたんだ?」
女の子は、
「ひろし君が、赤色のボールペンを無くしたそうなんです。10万円もするそうです」
と言った。
桜井は、
「そんな高級な物を無くしたのか。それは見つけないといけないな。さっきまで使ってたのか?」
と訊いた。
ひろしは、
「はい」
と答えた。
桜井は、
「とにかく、もう一度探してみろ。近くにあるかもしれん」
と言った。
ひろしは、周りを改めて探してみたが、やっぱりどこにも無い。
その時、
「誰かが盗んだのかな?」
という声が聞こえた。
(はっ! そうか…そうとしか考えられない!)
ひろしは、周りの生徒を見渡した……全員が犯人に見える…。
その時、チャイムが鳴った。
「キーンコーンカーンコーン…」
みんなが席につく。
桜井は、
「えー、ひろし君が大切なボールペンを無くしたようだ。色は赤色だ。誰か知らないか?」
と言った。
教室がざわつくが、見た者はいないようだ。
するとひろしは、
「えーん!」
泣き出した!
やっぱり小学生だ。
すると女の子が、
「ひろし君! 泣かないで! 絶対にボールペン見つけようよ!」
と言った。
クラスのみんなも、
「泣くなよ! 絶対に見つかるよ!」
と言った。
ひろしは、
「うん」
と言って涙を拭いた。
その時、
ひろしは服の中で何か違和感を感じた。
ムニュ……。
「あれっ? 何だろう?」
ひろしは、服を触って確認してみた。
「……ん?……この細長い感触……もしかして……」
みんなにバレないように、チラッと見てみる。
(……赤い!……ボールペンだ!! こんなところにあった!!…………ヤバイ…………犯人は僕だ……)
ひろしは、服の中にボールペンを戻した。
その時、女の子が、
「盗った人、正直に言いなさいよ!!」
と言った。
ひろしは、
「ちょっ! ちょっと待って! み…みんなありがとう! もういいよ! ボールペンは、あきらめるよ!」
と言った。
すると、女の子は、
「諦めちゃダメだよ! ボールペン探そうよ!!」
と言った。
クラスのみんなも、
「探そ!! 探そ!! 盗った奴がいたら絶対に許さないぞ!!」
と言った。
ひろしは、心の中で、
(大変な事になった…)
と思った。
すると、桜井は、
「よーし、わかった。みんな目をつむって下を向け!」
と言った。
クラスのみんなが下を向く。
ありがちな光景だ。
ひろしも下を向いた。
「えーと…もし、ひろし君のボールペンを盗った者がいたら素直に手をあげなさい」
「…………」
誰も手を上げない…当然だ。
桜井は、教室の中を静かに歩き出した。
「トコ…トコ…トコ…」
そして、ひろしの近くで止まり、
「困った事になったな!」
と言って、ひろしの体を、
「ポン!」
と叩いた!
その瞬間! ひろしの体からボールペンが、
ポロッ!!
と出てきた!!
「うわっ!!」
ひろしは、急いでボールペンを隠した!
ササッ!!
しかし、右から強烈な視線を感じる……その視線の先は……もちろん桜井だ。
ひろしは、
「あのっ……これは…」
と言った。
すると、桜井は、小さな声で、
「……何も言うな。服の間にでも挟まっていたんだろ」
と言った。
なんと物わかりのいい先生だ!!
ひろしは、
「助かった…」
と思った。
すると、桜井はこう言った。
「そのボールペンくれ…」
ひろしは、
「え?…今何て言いました?」
と訊いた。
すると桜井は、
「…そのボールペン高いんだろ? 俺にくれ…」
と言った。
ひろしは、
「嫌ですよ…」
と言った。
すると桜井は、
「ばらすぞ…」
と言った。
ひろしは、
「やめてください…」
と言った。
すると桜井は、
「キャップだけくれ…」
と言った。
セコイ先生だ。
ひろしは、
「嫌ですよ…」
と言い張った。
すると、桜井は、
「俺のボールペンと交換してくれ」
と言ってポケットからボールペンを一つ出した。
ひろしは、
「それ、いくらするんですか?」
と訊いた。
すると、桜井は、
「10本で100円…」
と言った。
ひろしは、
「てことは一つ10円じゃないですか…」
と言った。
桜井は、
「キャップだけでいいからくれ…」
と言った。
ひろしは、キャップをわたす気は全く無かったが、この場を切り抜けるために、
「……わ…わかりましたよ…キャップだけですよ…」
とウソをついた。
すると、桜井は、
「よし…」
と言って、教室の前までトコトコと歩いていった。
そして、
「よーし! みんな、顔を上げろ!」
と言った。
クラスのみんなが顔を上げる。
桜井は、
「おい! これだけは言っておくぞ!! 人の物を盗むのは犯罪だぞ」
と言った。
そして、チョークを右手に持って黒板に文字を書き始めた。
どうやら説教が始まったようだ。
「そもそも人の物を盗むというのはな……」
ひろしは、
「わざとらしいな…」
と思った。
そして、約10分の間に、このような事を黒板に書いた。
・犯罪は絶対に犯してはいけない。
・人としてのプライドを持て。
・はら黒い人間になってはいかん。
・ひたむきにひたむきに生きろ。
・ろくでなしになるな。
・しっかり覚えとけ。
桜井は、説教を終えると、
「よーし、みんな! もう一度目をつむって下を向け!」
と言った。
そして、
「あと一回だけチャンスをやるぞ! 盗んだ者は正直に手をあげろ」
と言った。
もちろん誰も手を上げない。
桜井は、ひろしの方に近づいてきた。
「トコ…トコ…トコ…」
ひろしは、小さな声で、
「何ですか?」
と訊いた。
すると、桜井は、
「やっぱりキャップは嫌だ…ボールペンくれ…」
と言った。
ひろしは、
「ダメですよ…」
と言った。
すると、桜井は、
「黒板を見てみろ…」
と言った。
ひろしは、黒板を見てみた。
しかし、何も変わったところはない。
「何ですか?」
すると、桜井は、
「文字を見てみろ…」
と言った。
ひろしは、黒板の文字を見てみた。
・犯罪は絶対に犯してはいけない。
・人としてのプライドを持て。
・はら黒い人間になってはいかん。
・ひたむきにひたむきに生きろ。
・ろくでなしになるな。
・しっかり覚えとけ。
やはり何も変わったところはない。
ひろしは、
「何なんですか? 教えてくださいよ」
と訊いた。
すると、桜井は、
「左上から、たてに読んでみろ…」
と言った。
ひろしは、文字を見た。
・犯罪は絶対に犯してはいけない。
・人としてのプライドを持て。
・はら黒い人間になってはいかん。
・ひたむきにひたむきに生きろ。
・ろくでなしになるな。
・しっかり覚えとけ。
「えーと…犯…人…は…えええ!!!」
ひろしは、大声を出しそうになった!!
桜井は、
「ふふふ…誰も気づかないって…ちょっと遊んだだけだ…」
と言った。
ひろしは、
「もう…変な事するのやめてくださいよ」
と言った。
桜井は、
「ボールペンくれ…」
と言った。
ひろしは、
「嫌です」
と言った。
すると、桜井は黒板の方に向かって歩き始めた。
そして、黒板消しを手に取ると、このように文字を消した。
・犯 は絶対に犯してはいけない。
・人 してのプライドを持て。
・は 黒い人間になってはいかん。
・ひ むきにひたむきに生きろ。
・ろ でなしになるな。
・し かり覚えとけ。
(うわー!! やめてくださいよ!! 他の生徒が見たらどうするんですか!)
ひろしは、心の中で叫んだ!
すると、桜井は、さらにこのように文字を消した。
・犯 犯
・人
・は 人 は
・ひ ひ ろ
・ろ し
・し
(うぎゃー!! やめてください!!)
ひろしは、心の中で叫んだ。
すると、桜井は黒板にこう書いた。
「あかいボールペンがほしい。ひろし様」
本当にしつこい人だ。
ひろしは、
(ダメですよ!)
と心の中で言った後、首を横に振った。
すると、桜井は文字を消して、
「あ ほ ひろし 」
にした。
(あほって何ですか! あほって!!)
ひろしは、ムッとした。
すると、桜井は、黒板の文字をすべて消して、
「よーし、みんな顔を上げろ!」
と言った。
みんなが顔を挙げる。
すると、桜井は、
「おい! ひろし! 念のため、自分の服をもう一度調べてみろ!」
と言った。
ひろしは、
「ドキッ!!」
とした!
そして、
(やばい…ついに攻撃が始まったぞ…どうしよう…)
と思った。
すると、となりの席の賢一が紙を渡してきた。
ひろしは、
「なんだ?」
と思いながらも紙を読んでみた…。
するとこう書いてあった。
『事情はすべてわかっている。俺がボールペンを預かってやるよ』
ひろしは、
(えっ? こいつ全部知ってたのか!)
と驚いた。
横を見ると、賢一がニヤッと笑った。
ひろしは、
(よし…これは地獄に仏だ……とりあえず賢一にボールペンを渡そう…)
と思った。
そして、みんなに見えないように、さりげなくボールペンを渡した。
賢一は、それを受け取る。
自然な感じで渡すことができた。
大成功だ。
ひろしは、
(よし! うまくいった! 賢一ありがとう! お前は神様だ!)
と思った。
その瞬間!!
「ボキボキッ!!」
という音が聞こえた!!
明らかにボールペンの折れる音だ!!
「えええ〜!!!」
賢一は、折れたボールペンをひろしのポケットに素早く入れると、立ち上がってこう言った。
「先生! 犯人は、ひろし君です!!」
(おしまい)